「お前、よく人の家の汚ねぇキッチンとか掃除できんな」
ハクイは既に、ペコラをばっちぃ雑巾を見るかのような目で見てくる
「あぁ、コツがあるんだけど、聞きたい?」
「いや、俺そういうシチュエーションに一生巡り合わねぇ自信あるし」
「…ハクイ、何事も経験者から話を聞くと言うのは、いいものだと思わんかね?」
「いや、だから…」
「今はピチピチ元気な親だって、今の時代いつ介護だ掃除だってなるか分からない。認知症が増える昨今、今やゴミ屋敷だろうが汚部屋だろうが、それはもはや他人事ではないのだよ。形上、縁切ってたって、はい、亡くなりましたあとは行政にまかせた!とかできないわけだし」
「いや…俺、兄ちゃんいるし…そもそも縁切ってねぇ」
「もうその考えは金平糖より甘いね」
「…お前は、どこのおばちゃんだよ」
「だってハクイのお兄ちゃんって、あんまり日本にいないし、それにうちのお父さん次男なんだけど、長男さんなーんにもしないっていうので、おばあちゃん亡き後の家の手入れも、法事も、畑とかの管理も次男のお父さんがしてるよ?片付けももろもろも」
「え、まじで?」
「そうだよ~、お母さんは、お兄さんのお嫁さんが恐妻家かなんかだからって言ってたけど、兄弟って結婚相手にそこまで口出せるもんじゃないよねぇ?じゃあ何がどこでどうなるか分からないよ」
「…まじかー…俺まだ32なのに、そんな心配しねーといけねーの?」
「ハクイはまだお兄ちゃんいるからいいよ、少なくとも話せる人がいるんだからさ。ペコラなんて一人っ子だよ?親がどーなってもペコラ1人で抱え込まないといけないっていうさ」
「なんかお前、アホだアホだとは思ってたけど、真面目に考えてんだな」
「いや、全然」
「…オイ」
「いや、ちょっとシリアスな感じだそうと思ってさ、へへへ、でもまぁどこで何が役に立つかは、分からないでしょ?」
「まぁな、じゃあ聞いてやるか。んで、お前はそのゴミ屋敷のキッチンをまずどうしたんだよ?」
「初めてその台所を見た時にさ、なんかこの風景どこかで見たことあるな~って思ったのよ」
「お前の実家とか言うなよ」
「いうや、いや、そうでなくてね?ジブリのラピュタってアニメ知ってる?」
「まぁ、一応は」
「それでさ、シータが飛行船で料理するシーンがあるんだけど分かる?」
「…分かんねぇ」
「え?!分からない?!タイガーモス号の台所でシータがきったない台所を綺麗にして、大鍋とかでご飯を作るシーンがあるんだけどね?!」
「お、おう」
「ペコラ、そのシーンが大好きでね?!上にお肉とかもぶら下がっててさ?!腕まくりしてシータが気合いれるシーンとか本当に好きでね?!」
「ラピュタってそんなメシメインの話だっけか?」
「いや、違うけど!あ、あのパズーパンのシーンも好きなんだけど、とにかくその海賊船の台所シーンが、美魔女家兼オフィスの台所を見た瞬間リンクしてね?!あ、今、ペコラ
シータになった!
って、テンション上がってさ?!?!?!?!?!?!」
「…わりぃ、ついていけねぇ」
「いや、だからっ!掃除もさ?!こうやって好きなアニメとか映画でもドラマでもなんでもいいんだけど、何かにリンクするとすんごい楽しいのよっっっ!!!!こんな感じで!」
「…お前は脳内花畑人間かよ」
「いやいや、その時はジブリ人間になったよ!あぁ…シータもこんな感じでお鍋洗ってたのかしらとかね?!いやぁ~ラピュタでも巨大な寸胴鍋出てくるんだけど、会社の台所にもなぜか寸胴鍋がおいてあって!中はもちろんカビの桃源郷みたいになぅってたんだけど!シンクには入りきらないし、アレ、どうやって洗ったんだろうね?!シータは?!しかも水を節約しながら、食器とかも綺麗にするって何がどうなったのか
色々試してたんだ!」
「…なんかもう、なんの罰ゲームだよって感じなんだけど」
「でさ?!汚れた食器とかを一気に水で流すとだめなんだよね?!一回、ざっと使い捨ての手袋で、生ごみ系はまとめて捨ててから、シンクにいかないと、何回生ごみ回収してても追いつかないのよ!」
「流し台がゴミであふれ返るって、どんな状態だよ」
「いや、だからあんな状態だよ?!ハウルの動く城も近いっちゃ近いけど、ちょっとハウルのキャラクターだとそこまでゴミゴミ?気持ち控えめだよね?!」
「普通の人間はそんなところに注目してジブリは見ねぇ」
「あ~でも、さすがに、ゴミ箱どけた瞬間、ゴキブリの死骸やゴキちゃん一気に飛び出してきたのはけっこう、トラウマかな…ははは」
「…それどんだけ美人が住んでても、俺は嫌だわ」
「いや、それよりその後の方がびっくりでね?」
「何をどうしたらそれ以上のびっくりがくるんだよ」
「一般的に、やっぱりゴキブリを見た時の反応はキャーだと思うのよ?おぉぉぉぉっ!でもいいんだけどさ」
「まぁ、そうだな」
「そしたら、静かにセイソ先輩が台所に入ってきてさ?スゴイ勢いと速さでゴキブリ
素手で潰していってね」
「…………………それ、女だよな?」
「もちろん、上品な着物が似合いそうな美人だよ」
「…俺、これから美人見た時ちょい考えるわ」
「いやぁ~そのギャップがまたかっこよくてね?そんなこんなで虫関係はセイソ先輩が全部退治してくれたり、頼んだら外に逃がしてくれてね?」
「まじ美人こえぇ………」
「ちょっと聞いてる?!」
「おう…待て、俺の繊細なハートまお前みたいに鉛でできてねーんだよ」
「で、分かったことがあるの。まずは生ごみを全部集める、んで、次は虫さんたちのお引越し、もしくは残念ながらお葬式」
「なんでだ?」
「部屋の中に食べ物、生き物がむき出しだと、まず空気でヤラれる」
「………」
「マスクしてても、ほとんど意味なかったんだと思うのよね。けっこう器官にきたから。だからまずは異臭の根源と、空気をどうにか正常にまどすことを最優先事項にすすめないといけないよね」
「…スゲーな」
「あとは、音楽とかは絶対つけない、なるべく無音な状態で始めないとね」
「せめて耳くらい、逃げ場にさせてやろーぜ?」
「だめだめ、どこからなんの生き物が飛んでくるかわからないから!!!」
「……………………」
「で、ゴミさえまとめれれば、大方の掃除は終わるのよ。ただ、前にも言ったけど、まさかの食べ残しのカップラーメンの汁の中からダイヤモンドの指輪が出てきたりしたから、慎重に慎重にゴミの分別をすると、けっこう時間はかかる。でも、また何か出てくるかも?!という期待も、ジブリ効果動揺、楽しく掃除ができたコツだよね」
「何かとんでもないものが出てくる確率の方が高けーじゃん、ソレ」
「ハンガーだけ大量に100本以上とかね」
「何でそんなもの出てくるんだよ」
「それが、誰も覚えがないらしいんだよね、あのハンガー」
「…ゴミん中に、誰かほかのやつもまぎれて住んでたんじゃね?」
「ありえるありえる、ははは、あ、あとは地味にそうやって何かのカテゴリ―分けをして、数を数えるのも楽しかったよ?!マニキュアとか全部で537本あってさ?!見つける度に、『でたーーー!』みたいな感じで、記録更新してくのも楽しかった、あと雑誌も多かったかな、それは200くらいしかなかったけど、ペットボトルは150本くらいあって」
「…それが楽しむこつかよ」
「そうだよ、時にポケモン要素と、大量に素材を集めるアトリエシリーズをまさに現実化にして楽しむ感じで」
「よく分かった。俺これからは美人には気を付けるわ」
「そんなこと言ってなぁぁぁぁぁぁい!!!!!違う違う!ちょっとちょっと!これは掃除をいかに楽しむかという経験を…聞いてーーーーーーーーー!!!」